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| 「釣り人の価値観」 |
| 川原直毅(かわはら・なおき) |
業界は相変わらず景気のいい話が聞かれない。やはり釣り人も自粛しているのだろうか渡船に乗ると以前より釣り客が相対的に減ったように思うのはどうやら私だけではなく船長さんも同様に感じているようだ。バブル以降、平成不況は釣具業界を直撃し、おまけに釣り人口の激減は市場規模を縮小させた。しかし、メーカーも自社ブランドのイメージアップと売上げ向上を目途にトーナメント大会や全国大会などを開催し、何とか釣り業界を活性化しようと必死になっている。大会では釣り師達が日頃の腕を競ってプライドをぶつけ合う。釣り雑誌も実況中継並みに大会の詳細をレポートしている。最近では若手の釣り師も台頭し、ベテランと若手のガチンコ対決もみられるようになってきた。やはり大会が開催されることでトーナメント志向の若手も増え、釣り人口の増加にもつながるのかもしれない。
まぁ、趣味の釣りとは言え、トーナメント志向の釣り師と大物釣り師とはまるで価値観が違う。これはこれで目くじらを立てることもないが、最近は釣り人の価値観も大きく変わってきたようで、釣りのジャンルが広がったようだ。
ここ10年ぐらいにエギングという造語が市民権を得て磯釣り師もエギングロッドを振ってイカのお土産釣り。それまで磯のグレ、チヌ釣りでは見向きもされなかったイカが今では波止釣り、陸っぱり釣りと全国的にブームとなった。今やロッドケースにはエギングロッドを常備している釣り人もいるぐらいだ。もうひとつのトレンドはソフトルアーでメバル、カサゴ、ソイなどの根魚をライトタックルで釣るというもの。特に、メバルのソフトルアー釣りはメバリングなどと呼ばれ、これも市民権を得ようとしている。エギングといいメバリングといい、それほどお金が掛からない釣りという点では共通しているし、安近単(安い・近い・簡単)というキーワードが世相を反映しているようだ。
そう言えば、釣り人のファッションも昔に比べて随分と格好よくなった。女性釣り師のために女性専用のウェアも開発されている。磯ではライフジャケットに所狭しと自分の名前は勿論、釣りクラブの名前に始まりメーカーのワッペン、どうかすると商品名までびっしりとF1レーサー並みの派手さで、それがまた実に格好いい。ある意味、釣り人の自己主張そのものであるが、恐らくメーカーのテスターなどへの憧れもあるだろうし、一方ではメーカーへの忠誠心の現われを自分の存在感と同時に主張しているのかもしれない。
これは釣り人が歩く広告塔になっている訳だから、メーカーにとっても有り難く、釣り雑誌や大会など露出頻度の高い釣り師のイメージを大切にし、そのイメージの延長で主力製品の販売促進に繋げようとする。
釣りは個人的趣味だから好き嫌いがはっきりしているが、価値観は周囲によって少なからず影響を受ける。最初に見たり手にしたり経験したことに強い印象を持つと後から見たり手にしたり経験してもそのインパクトが前の方が強ければ、それが固定観念となり、なかなか目移りしないようになる。マーケティングの世界ではこれをアンカーリングというが、趣味の釣りにはこれが良く当てはまる。使って見て初めてその良さを知るというのは消費経験が物を言う。モノを知らないというのはある意味不幸なことでもある。思い込みだけで自分の世界に浸るのは許せるが、使わずして評論家的になるのはもっと不幸なことだろう。昔はこうだった、という感覚で話をすると時間が止まってしまう。釣具の技術や性能は日進月歩。せめて釣り師たるものその感性は豊かでありたいものだ。
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